以前から知られていることですが、従業員を大切にする事業者は、顧客に対しても質の高いサービスを提供しています。これは、売り場でもカスタマーセンターでも同じです。少しの努力が売上増につながったり、逆にそのような努力を怠ってしまったことによって顧客が離れたりすることがあります。
ロックダウンを起因とした小売業の新たなビジネスモデルや、ビジネスプロセスの自動化と改善をもたらす技術によって、状況はますます複雑になっています。パンデミックによって、店員やコールセンターのスタッフが働き方の変更を迫られただけでなく、小売業界で豊富な経験を有していた従業員の多くが一時的な帰休を余儀なくされました。現在では、需要が回復し伸び始めていることもあり、彼らは自分のキャリアの在り方を見直そうとする動きもあります。
変化への適用
業界が平常を取り戻しつつある中で、事業者は、この何を考慮しなければならないのでしょうか。
まず、オンラインショッピングはパンデミック以前から拡大しており、効率性の高さから今後も普及し、選択され続けるという予測を受け容れることです。特に家電や食料品では、カーブサイドピックアップ(店舗外での商品受け渡し)や店頭受け取りなども登場し始めています。また、店員が非対面で行うオンライン相談会や商品デモなども、新しい小売りの形態として定着する可能性があります。
事業者においては、従業員の業務内容を弾力的かつ柔軟に変更し、新たな役割を担う取り組みが求められています。競争の激しい市場で優秀な人材を確保するには、給与や福利厚生を充実させるだけでは足りません。デジタル化を推進し、従業員に適切なツール、データ、情報を提供して、お客様との関係を深め、お客様の期待を上回るサービスを提供できるようにすることが求められています。
端的に表すと、店舗業務をできるだけスムーズにし、生産性を高める必要があると言えます。例えば、モバイルスケジュール、シフト交代制/希望制の導入、タスク管理、リアルタイムコミュニケーションツールやアプリケーションなど、リアルタイムのAI対応アプリケーションを提供することなどが挙げられます。 倉庫や店舗が満杯で在庫検索や商品補充ができなくなるような事態を避けるために、アルゴリズムによるマーチャンダイジングをスマート化して労働環境を改善することも、優秀な従業員の確保につながります。
同時に、事業者は、物価上昇や人手不足、サプライチェーンの不安定化により、コスト圧力にさらされています。このため、従来稼働する基幹系業務システムはできる限り継続し続けながら、上記に挙げたようなすべてを実現しなければなりません。
デジタルワークプレイスの導入
パンデミックによって、事業者や消費者が、いかに店員やコンタクトセンターに依存していたのか、また効果的な顧客サービスを提供するうえで、これらの業務部門がいかに重要であるかが明らかになりました。また、それまでにデジタルトランスフォーメーションに投資していた事業者が、投資していない企業よりもはるかに経営戦略を方向転換しやすいことも実証されました。
多くの事業者は遅まきながらも、従業員に質の高い販売接客スキルを身につけさせ、効率化と実現する技術を戦略の最上位に据えるようになりました。ガートナーが2021年にCIOを対象に行った調査では、調査に参加した企業の1/3が、デジタルワークプレイスへの投資を増やす予定だと回答しています。
小売事業者のデジタルワークプレイス、特に実店舗環境への投資は、売上増と増益につながることが証明されており、投資の好循環を生み出すだけでなく、競争力も大きく高めます。小売事業者がお客様の期待に安全かつ効果的に応えるために必要なスキルを店員に身につけさせるには、店舗の最前線に立つ従業員を最も重要な投資対象の1つに据えることが必要です。
投資の成果を得るには
米国のLowe’s Home Improvement社は、この分野で先行する小売事業者の一社です。投資を大幅に強化し、現場の担当者が厳しい環境下で仕事をするうえで必要なツールやサポートを確保しています。
パンデミックの始まりと共に、Lowe’sはすぐにカーブサイドピックアップの全国展開を決定しました。同社はちょうど同時期にEコマースプラットフォームを完成させていたため、展開は速やかに進み、店員の1/3にモバイル端末を支給しました。また、従業員のケアにも力を入れました。Lowe’sはパンデミックの最中も従業員や店員の支援に数百万ドルを投じ、現場担当者の時給の引き上げ、利益の分配と賞与の支給、遠隔医療の利用を拡大しました。
その結果、Lowe’sの販売業績は増加傾向にあり、顧客満足度のスコアも大きく上昇しています。経営陣は、賞与やインセンティブがカットされれば、優秀な人材の確保がさらに難しくなることを理解していたからです。
現場担当者への支援を優先し、デジタルワークプレイスへの投資を拡大するには、人と機械の労働力構成をより詳細に、かつ継続的に評価することも必要です。テクノロジーを投入して管理業務や定型業務を削減し、従業員がより有意義な接客業務に取り組めるように整備することは、職場におけるデジタルエンパワーメントを確立するうえで重要な鍵となります。
事業者は、ビジネス上の価値を最大限に高め、お客様の期待に応え、従業員の信頼感を育てて維持するために、最適なバランスを見極めなければなりません。これには、マイクロフルフィルメントやスマートレジ、スマートロボットなどの新技術の適用を検討することも含まれます。
従業員への投資の第一歩
小売企業においては、まず店長や店員の業務に大きな影響を及ぼす可能性のある機能(スケジューリングの生産性と精度を高めるインテリジェントオートメーションなど)を特定し、それに投資することが重要です。
もう1つは、リアルタイムなコミュニケーションツールを使用して、従業員同士の共同や知識の共有を可能にし、チーム間のサポート体制を構築することです。 さらに、業務部門や店舗運営部門と密接に連携し、マーチャンダイジング、チャネルオペレーション、フルフィルメントなど、エンドツーエンドの業務プロセスとタスク管理の関連性を評価することも有効です。
最終的に、スマートなデジタル技術を導入し、同時に従業員のスキルを高めることで、小売業界の事業者はパンデミック後の回復と再成長に向けた競争力を獲得できるようになるでしょう。