ビジネスを取り巻く環境
常に変化し続けることが当然となった時代において、ビジネスの俊敏性がこれほどまでに重要になったことはありません。企業・組織は将来の不確実性に備えなければなりません。近年に生じたパンデミック、自然災害、社会情勢不安など、それまでの日常を大きく変えました。それまでの不変や前提を基にした活動は迅速な対応を迫られています。重要なことは、これらの急激な変化に適応するために、何をすべきかを決め、またそれらをいち早く実行することにあります。
ビジネスの成長に市民開発が必要な理由
規模の大きな組織であるほど、これまでに一度はロボティックプロセスオートメーション(RPA)の導入を検討したことがあるかもしれません。既にRPAが運用されていることもあるでしょう。RPAによる自動化は、多くの場合バックオフィス(管理系業務部門:財務・経理や人事、総務など)への導入から始まります。バックオフィス業務は一般的に、定型で、反復的・繰り返し処理する業務が多く、RPAを活用して自動化した場合にもたらされる効果が大きいためです。それでは、そのRPAを長期的に運用し、かつ他の業務にも展開していくためにはどのようなことを考慮すべきでしょうか。またどのようにして安全性を確保すべきでしょうか。
それらを実現するひとつの方法が市民開発です。市民開発の意識が醸成され、その考え方が組織に定着すれば、業務横断的な自動化の展開はより迅速に行えるようになります 。
市民開発とは
最初に、市民開発者の定義を整理しましょう。
自動化における市民開発とは、専門的な知識や経験を有した技術者ではない従業員が者 以外の従業員が、自動化プログラムを開発して実行することであり、そのためのトレーニングを受けることから始まります。市民開発者によって開発された自動化は、その担当業務だけでなく、他の担当者の業務にも適用できます。
しかし、いっぽうで、一部の企業においては、開発や適用ルールが定められることもなく、利用者が勝手に自動化を開発して実行している様子も存在しています。市民開発者は、管理者による監視や計画を立てずに無法状態で自動化を作成・開発しますが、この方法によって開発された自動化の多くは、その担当者個人の業務の一部を自動化するに留まることになり、投資収益率がなく、ビジネスの成長に寄与することはほとんどありません。さらに悪い場合、セキュリティの侵害やコンプライアンス違反のようなリスクを生み出し、組織としての検出や対策を困難にする可能性もあります。
理想的な市民開発モデルとは
理想的で、効果を出しやすい市民開発モデルのひとつとして、センター・オブ・エクセレンス(CoE)組織の設置があります。CoEは、自動化を推進・運営するために設置された運営委員会のようなチームと捉えてください。このチームは、IT・情報システム部門を関与させて、ビジネスを加速させるために最適な自動化を計画・提供します。CoEは、業務担当者に対して、IT部門によって承認されたノーコード・ローコード開発ツールのように、その業務に合わせた自動化の開発に適した開発ツールを提供します。
市民開発が推奨されることによってもたらされる恩恵のひとつは、時間の削減効果です。業務の担当者自らが開発できるため、IT部門への相談や開発リソースを必要とする頻度を少なくできます。その一方でIT部門の担当者は、従来対応していた問い合わせや相談への対応時間を少なくして、基幹システムや情報システム、インフラの開発や運用などに専念できるようになります。CoEでは、ガバナンスを含めたベストプラクティスの運用モデルを設定し、市民開発者向けのトレーニングとメンタリングを提供し、組織における市民開発文化の浸透、定着、醸成といった活動を推進し、ビジネスの成長に貢献します。
市民開発の実践による効果
インテリジェントオートメーションは、日常的に発生する反復的な、繰り返しの作業から人を解放します。人はより達成感や満足度の高い、高付加価値な業務に集中できるようになります。正確かつ迅速に処理し、24時間年中無休で稼働します。しかし、多くの企業・組織が、自動化をより大規模に展開して、得られる恩恵の最大化を目指したいと考えており、その要望への主要な回答のひとつが市民開発の推進です。
市民開発の促進には多くのメリットを期待できます。いっぽうで、毎日一緒に働く同僚がどのような業務手順で作業しているのかを把握している従業員はほとんどいないのが実際です。より多くの人が自動化の恩恵を受けられるようにするための方法のひとつに、自動化のアイデアを集める取組が挙げられます。現場の業務担当者は、日常的に課題を抱えています。その課題を解決する自動化を開発するためにも、アイデアの募集を受け付けるようにすることは重要です。また、市民開発はリスキリングとキャリアアップにも役立てられます。このような取り組みを通じて、多くの自動化が活用されて浸透していくようになれば、新しい自動化もより迅速に展開できます。
万人向けではない市民開発
すべての従業員全員が市民開発者になるためのトレーニングを受ける機会はありますが、その全員が開発者に適したスキルを備えている訳ではありません。例えば、表計算ソフトは誰もが起動して利用できますが、作業を簡単に進めるためにマクロの機能を活用する人は多くないことと同じように、市民開発者に向いている人とそうでない人があります。従業員は業務の部門を超えて市民開発者になるためのトレーニングを受ける機会はありますが、場合によっては期待した効果に至らないようなこともあります。
市民開発者に必要な5つの資質

1. 問題解決に長けている
論理的な思考を好み、業務プロセスの標準化の推進に向いている。
2. 好奇心旺盛である
その自動化が、戦略の全体像において、どこに適合するのかについて鋭い感覚を持っています。文書化の能力にも長けています。
3. 新しい技術の利用に積極的である
一定の計算処理能力を備えていると同時に、技術に対しての理解力を有しています。
4. 慎重なアプローチ
市民開発者は、制御手順と配信方法がどのように機能するかを理解しています。
5. 成長にやりがいを見出す
新しいことを学び、問題解決を好む。スキルを伸ばすための新しい方法を見つけることに情熱を注げる。
外部への委託と内製化
多くの組織では、自動化の開発を外部に委託する傾向にあります。必要に応じて、組織内でトレーニングを行うこともあります。
私たちは異なる観点でのアプローチを提案します。市民開発者は組織内から募り、希望する従業員にトレーニングを行って育成する方法です。十分な学習を経て開発に取り組むことで、対象業務のプロセスについての理解を高め、自動化を加速し、効率的に開発できるようになります。そのような市民開発者をCoE内に配置することで、市民開発者はより開発に取り組みやすくなるだけでなく、キャリア向上の機会も提供します。
記録の自動化
驚かれるかもしれませんが、現在、エンドツーエンドの自動化を完全に網羅して開発できるデジタルソリューションは存在しません。記録ツールがありますが、記録ツールでは自動化を安全かつ大規模に実行することはできません。記録ツールでは、健全な自動化を実行するための例外処理を考慮することはできず、さらにインテリジェントオートメーションでは、開発に複数の人や端末が関わるためです。
5つのヒント
CoEとIT部門、さらに市民開発を組み合わせることによって、自動化から引き出せるメリットがさらに大きくできることは、これまでに説明してきたとおりです。さらに、市民開発を効果的に体制下するための5つのヒントを紹介します。
1. 大規模な自動化
組織全体に自動化を適用するという目標を設定しましょう。インテリジェントオートメーションは、変革のきっかけになります。
2. 強力なCoE推進組織の構築
CoEは自動化を拡張するためのサクセスファクターです。学習機会の提供、自動化対象業務プロセスの選定、自動化コンポーネントの管理・再利用の促進などさまざまなことを担当します。
3. 参加の促進
自動化のメリットを最大化するために、開発した自動化を複数の業務部門で利用できるようにします。ベストプラクティスを活用しましょう。
4. 開発した自動化を再利用
開発した自動化を部品として複数の業務部門で再利用できるようにしましょう。開発が標準化されることによって、より迅速に展開できるようになります。
5. セキュリティとコンプライアンス
企業・組織にとって最も重要な事項です。自動化を検討する時は、常にセキュリティとコンプライアンスの遵守を徹底しなければなりません。
中央集約型でCoEチームが開発に取り組み、自動化を推進することは既に成功例が多数あります。市民開発を成功させることで、ビジネス基盤のさらなる強化に向けた準備を進めましょう。